ACT5 卒業試験 ― 不思議な1週間 ―
建築学科では、設計はそこそこ・・デスクワークはいまいち・・という感じで、なんとなく過ごして・・、就職先も決まり・・いつの間にか4年生の10月くらいになっていました。
設計課題になると数日連続で徹夜するくらい気合が入っていたことを覚えています。
そんな、私に、またも、ピンチが訪れました・・。
必修単位の「構造」の試験がどうしても取れず、再追試験まで落ちていたのです・・(――;)
東北大学の建築学科は、実は、「構造」分野で 優れている大学で、原子力発電所など特殊建築の構造計画を国から委託されるほどだったのです。
そのため構造の授業が難しく、私のような単細胞では理解しにくいものでした・・。
最後の再追試験に残ったのは約10名・・。
もちろん試験を取れなければ、卒業できず1年後に持ち越し・・。
10人くらいだと、カンニングも出来ない(;_;)
「そうだ!答えをみんなでサインで連絡しあう方法があるぞ!」・・うまくいくかなぁ・・(^^;)
「ちょっと・・いや・・かなり、やばいなあ・・」
と、久々に机に向かって猛勉強・・。
就職先の会社には、「もしかすると、1年卒業がずれるかもしれません」・・と念のため報告。
猛勉強するも、参考書や教科書をめくっても理解できない難しさ・・(@@;)
最後には「こんなの解かんなくたって生きて行けるじゃん」・・と投げやりになる始末・・(ーー;)
そんな勉強をしていた試験2日前・・ 自宅の電話が鳴りました。
実家のおふくろでした・・。
おふくろ「顕志・・おじいさんがまずい状態なんだけど・・帰って来れない?」
私 「え? まずいって、どんな状態なの?」
おふくろ「もしかすると、亡くなるかもしれない・・」
私 「えぇ・・!。でも、俺、明後日、最後の卒業試験なんだよ・・。
おふくろ「でも、死んでしまってからでは何だから・・先生に言って帰ってこれないの?」
私 「・・・」
(そりゃそうだよなぁ・・死に目に会うのと、試験とどっちが大事か・・)
私 「先生に融通きかせてもらえるか、明日聞いてみるわ・・」
翌日、私は、構造の教授に電話して、祖父が危篤状態になり実家に戻らなければならないことを伝えました。
教授は、快諾してくれまして、後日、1人追試験を行うことになりました・・。
・・しかも、教授室で・・
1人追試験・・って、「カンニング」 も 「答えの伝達」 も絶対に無理じゃん(;;)・・。ガーン(--;)
そんな、絶体絶命の窮地に追い込まれながら・・試験当日、私は実家に戻りました。
<実家にて・・>
実家に帰ると、妹も実家に帰ってきており・・なんだか・・変な感じが・・
私 「あれ・・お爺さんは・・?」
妹 「それがさぁ・・ちょっとおじいちゃんの部屋に行ってみてよ・・」
祖父の部屋をそっと開けると・・
信じられない光景が・・。
手足が不自由で、ほぼ寝たきりの祖父が・・
ベットの上でぐるぐる動き回っている・・
しかも、私を見るなり「お前!誰だぁ!!」と叫びだす・・。
「殺されるゥゥゥ!!!!」とわめき散らす。
開いた口が塞がらないような光景に、しばし呆然・・。
私「じいさん・・いったいどうしたの?」
母「3日くらい前から、急に、頭がおかしくなったみたいで、ベットの上でぐるぐる回ったり、誰の顔を見ても分からなくて騒いでいるんだよね・・。」
私「・・・ なんで・・・」
母「こうなる直前に・・『みこ!みこ!』・・って何度も叫んでねぇ・・。それから急におかしくなったんだよ・・。お医者さん呼んでも、よく分からない・・と言われてさ・・。」
『みこ』・・とは、当時、我が家で飼っていた猫の名前でした。
私「そういえば、みこ(猫)はどこに行ったの?」
母「それが、その日から 帰ってきてないんだよね・・」
私「え・・。もしかして、どっかで死んでるんじゃないの・・」
母「縁の下とか、納屋とか、一応見たんだけど、居ないんだよねぇ・・」
私・母・妹 「・・・・」
ふと・・、私が ひらめく? 頭をよぎる? 直感? めいたものが頭に浮かんで・・
私 「みこが 最後に子供を産んだ場所ってどこだっけ・・?」
妹 「あ・・かやぶき屋根の雨戸の戸袋の中だ・・」
私 「まさかなぁ・・そこに居たりして・・(^^;)」
妹 「とりあえず見てみようよ・・」
私と妹は、江戸時代から建っている かやぶき屋根 の建物に行き、みこ(猫)が最後に子供を産んでいた、戸袋のところに行きました。
そして、立て掛かっていた数枚の雨戸をずらしました。
みこ(猫)は、そこで死んでいました。
ぞくぞく・・という、寒気を感じました・・。
その場所に 呼ばれた感 がして、思わず「うわっ・・」と声に出してしまうほどでした。
みこ(猫)は、とりあえず、土に埋めて弔ってあげましたが・・
爺さんが『みこ、みこ』と叫んでから、おかしくなったのと・・、その『みこ』が、本当に死んでいて、私が直感でそこに呼ばれた感があったのと・・いろいろ重ねると・・
なにこれ・・みこ(猫)が 爺さんに取り付くって・・そういう事ってあるの・・?
そういうことって・・世の中にあるものなの・・?
私は、お化けとか・・幽霊とか・・宇宙人とか・・あまり信じない方なので、この不思議な出来事が、ショッキングでした・・。
もし、仮にそうだとしても、現状・・病気でもない爺さんを治す方法もないので、これからいつまで 爺さんはこの状態なんだろう・・という現実だけが重くのしかかっていました。
特に危篤でもない・・基本的には元気・・なので、私は、翌日には、仙台に戻ることにしました。
<大学にて・・>
私は、お礼を伝えに 構造の教授室に行きました。
教授「おじいさんは大丈夫なの?」
私 (不思議な話はしないで) 「ん~・・よく分かりません・・。数日は大丈夫そうなので戻ってきました・・。
教授「それじゃ、明日の2時にここ(教授室)に来なさい。すぐに試験をするから」
私「え!。明日ですか? 早っ・・」
私は息つく暇もなく、翌日、最終追試験を受けることになりました・・
勉強したことは、今回の騒動ですっかり すっ飛んでしまい・・、留年確実な・・たった1人の孤独な試験に臨みました(;_;)。
<最終試験:教授室にて・・>
教授「はい、これが試験です。」
私の心の中 (げ・・見るからに難しい)
教授「時間は90分」
私の心の中 (分からない90分は、苦痛以外の何物でもない・・なあ)
留年・・確実・・
・・と思ったとき。教授から思わぬ一言が・・
教授 「教科書と参考書 見ていいから」
私 「え!?・・見ていいんですか?」
教授 「おじいさん大変だったろうから、特別いいよ」
私 「マジすか!?」
教授 「あ・・あと、私、授業があるから、途中で居なくなるので、1人でやっててね・・。助手が たまに見に来るけど、終わったら帰っていいから・・」
私の心の中 (やったぁぁ~♪・・不敏なことも役立つものだ・・(^^;))
試験がスタートして、間もなく、教授は授業へ行き・・、私は、教科書を広げて、どうどうとカンニング?・・(^^;)。
・・しかし・・
もともと、教科書見ても理解できない難しさなので・・結局、よく分からず・・(@@;)
「やばい、やばい」・・と、焦りながら、教科書をべらべらめくって時間が過ぎていきました・・(--;)
やっぱり・・留年だ・・
そう思って、諦めかけたとき・・
助手のAさんが、入ってきました・・。
助手Aさん「白鳥・・おじいさん大変なんだって?大丈夫なのか?」
私(ここまで来たら不敏を装って)・・「あと、何日もつか分かりませんが・・数日は大丈夫かな・・という状態です・・(--;)」
助手Aさん「試験の方はどうだ・・。きちんと卒業してお爺さんを安心させないと・・」
私 (不敏オーラ 全開で・・)「教科書見て良いとは言われたのですが・・なかなか難しくて・・ダメですね・・」
助手Aさん「・・・」 じ~っと【試験問題】と【私の回答】を見て・・
助手Aさん「白鳥、お前バカだなぁ・・。ここはさ・・、例えばだよ・・」
と、Aさんは、分かりやすく説明をしてくれました。
さらに・・
助手Aさん「仮に、ここの数値が、こうだったとすると・・。あくまで仮の数値だよ・・」と言って、計算の方法まで教えてくれました。
・・しかも・・
私の心の中(え!? それって、答えそのものじゃん!(@@;))
Aさんは、「仮の数値」・・と言いながら、
答えそのものを書いてくれました(;_;)。
Aさん「解ったか?」
私「ええ!よく分かりました(そりゃそうだ・・)」
Aさんは、それじゃ、書き終わったら呼んでね・・と部屋を出て行き、私はAさんが書いてくれた答えを、回答用紙に丸写しして、試験を終えました。
教授・・助手Aさん・・ありがとうございました(^^)
こんな九死に一生を得る形はあるのだろうか・・(^^;)
試験を無事に終えて、卒業が確実になったその日の夕方、自宅の電話が鳴りました。
実家の母親からでした。
母「おじいさん・・治ったよ・・」
私「え!?ウソ?・・どうやって!?」
母「それがさ・・近所の 咲江さん(爺さんの友達おばあさん)が、除霊師という人を連れてきてさ・・。その人に拝んでもらったら、すぐに戻ったんだよ・・」
私「マジで!?。そんなことってあるの?」
母「私もびっくりだよ・・。 霊ってあるんだねぇ・・」
私「信じられないねぇ・・」
母「ところで、卒業試験はどうだったの・・?」
おかげさまで・・卒業できそうだよ(^^;)
今回は、いったい「何の」おかげ・・?
・・だったんだろう・・。
不思議な数日間でした・・(^^;)。
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